「ひと」小野寺 史宜

「ひと」小野寺 史宜 読書

ツイッターのTLで流れてきて、たまたま近所の本屋さんにも置いてあり、即買いです。(SHI@TOUさん、ありがとうございます。)
最近はノンフィクションが多く、久しぶりの小説、それも楽しい1冊で、危うく電車を乗り過ごしそうになりました。💦

もしかしたらあるかもしれない感

東京で大学生活を送る柏木 聖輔(かしわぎ せいすけ)は、二十歳の秋に母を亡くします。その前に彼は父も亡くしていました。
両親がいなくなり、聖輔は大学を退学し、自活する道を選びます。

突然のことでどうすることもできないまま、ふらりと立ち寄った商店街のお惣菜屋さん「おかずの田野倉」で、残り1個のコロッケを買おうとしました。
ところがおばあちゃんに割り込みされて、残り1個のコロッケを譲ることになりました。
見かねた店主が聖輔にメンチカツをすすめます。所持金はコロッケ1個分しかないことを伝えたところ、店主はそれでいいよといってくれたのでした。

そしてメンチカツをほおばりながら目にしたのは、おかずの田野倉でアルバイト募集の貼紙でした。

・・・ここまでの流れは、小説、フィクションでなくても、もしかしたら現実にもあるかもしれないと思わせる、ちょうどいい感じです。

劇的な展開はないけれど

面白い作品なのですが、次の展開が気になって、じゃんじゃんページをめくって読む、というタイプの作品ではありません。
だから、劇的な展開を期待されると退屈だなーと思われるかもしれません。

確かに主人公 聖輔、その周囲の人々に色々なイベントが発生します。でも、とてもドラマティックな内容ではありません。むしろ静かなくらいです。
とても穏やかな気持ちで読むことができる1冊です。

聖輔が初めて「おかずの田野倉」に訪れてメンチカツを食べる場面で、こんな文章があります。

「レンジで温めたものは出来たてとは言えない。本物の出来たては、温かいのではない。熱いのだ。レンジでだって、バカみたいに熱くすることはできる。でもそれはただ熱いだけ。味との調和はない。」

これは聖輔が心のうちでつぶやいている言葉です。
聖輔、作者のていねいさ、真摯さが伝わります。

小説はストーリーを楽しむためのものかもしれません。
でも、世界観をゆっくり味わうという読み方もあるのだなと思います。
何度も繰り返し読みたい作品です。

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